手塚治虫「火の鳥・宇宙編」感想・レビュー!牧村と猿田に与えられた罰に納得がいかない…

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ぽこ
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手塚治虫「火の鳥シリーズ」の再読中です。

本日は、4巻目にあたる「宇宙編」を読んだ感想です!

「火の鳥・宇宙編」はどんなあらすじ?

火の鳥・宇宙編」は、火の鳥シリーズの中で、未来の方から数えて2番目の物語です。

具体的には西暦2577年のお話です。

宇宙船が破損して、乗組員の宇宙飛行士たちが、それぞれの脱出カプセルに乗って宇宙を漂うことになります。

ですが、宇宙船の破損の原因となった乗組員・牧村の死に際し、他殺をうかがわせるダイイング・メッセージが…。

…というミステリー風にはじまる宇宙編ですが、そのミステリーはすぐに謎が解けます。

宇宙編には「流刑星」が登場し、テーマとしては「宇宙時代の罪と罰」といったところでしょうか。

時間軸として宇宙編の後ろになるのは2巻の「未来編」、前になるのは6巻目の「復活編」ですが、宇宙編はその前後の物語と密接なつながりはありません。

宇宙編のキーパーソンである牧村は、2つ前の物語「望郷編」に登場します。

「未来編」の登場人物は、これまた2つ前の物語「復活編」にロビタが登場します。

ぽこ
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おかげで私は長らく望郷編→宇宙編→復活編→未来編という時系列と勘違いしていました。正しくは望郷編→復活編→宇宙編→未来編ですね。

「火の鳥」は、未来の物語は時系列で1巻飛ばしでつながっているのが特徴です。

そこに漫画の神様のどういう意図があるのかはわからないですけどね…。

流刑星はシーシュポスの神話?

ここからは「火の鳥・宇宙編」のネタバレを含みますので未読の方はご注意ください!

宇宙編に登場する流刑星は、宇宙犯罪者が送られる星です。

犯罪といっても、法を犯した犯罪者ではなく、倫理的な罪を犯した人々が集められます。

倫理的な罪…ですから、流刑星はどこかの公権力が運営している流刑地ではありません。

もっとスピリチュアルな、精神的な何か(物語の中では「火の鳥」の形で表されている)が司る流刑地で、この流刑星に飛ばされる人々も、超常的な力によって連れてこられます。

ぽこ
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この時代の地球の人類は、流刑星の存在を知らないようです。

流刑星ではどんな罰を受けるのかというと、「永遠に繰り返す」という罰です。

牧村はフレミルという星で、無差別の殺戮を行ったために罰を受けていますが、その罰は「永遠に年を取る→若返るを繰り返す」という罰です。

ぽこ
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え!?それのどこが罰なの?むしろ楽しそうじゃない?

と、私なんぞは思ってしまいますが、その繰り返しは地球ではなく、流刑星で行われます。

流刑星には町も知的生命も存在せず、非常に厳しい天変地異が繰り返され、おそらく生きるだけで精いっぱいの星です。

この流刑星の特徴が、嵐や天変地異があっても、何もかもひとりでに元に戻ってしまうということ。

転がり落ちた岩は、勝手に元の位置に戻ってしまうのです。

…ということは、木を切って家を作っても家は勝手に元の木に戻ってしまう、岩に文章や絵を刻んでも消えてしまう…おそらく人間の営みを積み重ねることは不可能であることが考えられます。

ぽこ
ぽこ

確かにそんな条件で永遠に生きるのは、地獄の責め苦かもしれませんね。

「流刑星の岩が元通りに戻る姿は、何かを想起させるなあ…」と思ったら、シーシュポスの神話ですね。

ギリシャ神話でシーシュポスは、岩を山の上まで引き上げて、引き上げたとたんにその岩が下まで転がり落ちてしまうという罰を、地獄で永遠に受けています。

この絶望しか感じられない罰の中に、カミュは人間の尊厳を見出しますが…牧村もいつか何かの光をつかむことができるのでしょうか。

それともナナの存在が、既に救いになっているのかな?

宇宙編にしれっと描かれるディストピア

宇宙編は「宇宙スケールでの罪と罰」が大きなテーマだと考えますが、物語の中でしれっと描かれるディストピア要素が地味に怖いです。

宇宙船の乗組員であるナナ、牧村、城之内、奇崎、猿田たちは、「宇宙連絡員」と呼ばれる人たちです。

宇宙船に乗って、宇宙の基地から地球へ資料を届ける仕事で一生を終えます。たった1回の片道です。

600年ほどの年月をかけて、交代で冷凍睡眠しながら宇宙船を操縦するのですが…実はこの「宇宙連絡員」たちは、そのために生まれてきた人間という設定です。

ナナにダンス(というか結婚)を申し込む奇崎が

地球の人間たちなみの権利を主張したっていいだろ?

と、サラッと言います。

このセリフには、「自分たちには地球人と同じ権利はない」という前提が感じられます。

地球連絡員たちは人工的にクローンや人工授精などで生産された「道具」なのでしょう。

実際に牧村は、雑菌に触れないようずっとセンターの中で育てられ、親も友達もいなく、外に飛び出した後は残酷なまでの検査を受けたことが描かれます。

カズオ・イシグロの「私を離さないで」に描かれる、臓器提供者としてのクローン人間を養成する施設へールシャムを思い出します。

この宇宙編では、この時代には人間を道具として生産することに何のためらいもなくなっているような、そんなアッサリ感が怖く感じます。

宇宙編の火の鳥のふるまいには納得いかない…

さて、実は私、宇宙編はあんまり好きではありません

物語の面白さは抜群なのですが、肝心の火の鳥のふるまいに納得がいかない!

まず牧村への罰ですが、牧村が上述のようなディストピア世界で、人間的な情緒を奪われた子ども時代を過ごしたことは叙情酌量されるべきと考えます。

牧村を罰する前に、人間を道具扱いする文明そのものに罰を与えるべきでは?

また、猿田に関して、子孫まで罪を負わなくてはならないのはおかしいと考えます。

私は「先祖の罪を償え」と言われても絶対的に拒否します。私と私の先祖は別の人間です。

さらに、どうして牧村の罪に、他の宇宙連絡員が巻き添えをくわなければならないのでしょうか?

まあ、火の鳥は猿田を最初は地球に返そうとするので、もしかしたら描かれていないだけで奇崎も城之内も助かっているのかもしれませんが…。

そんなわけで、宇宙編全体を覆う価値観には、私は同意できないことが多いです。

まとめ

「火の鳥・宇宙編」の感想でした。

宇宙編での火の鳥のふるまいに共感できないため、私の中では火の鳥シリーズの中では、あまり好きではない作品です。

ただ、流刑星の設定の深さや、前半で脱出カプセルの中のマイクで4人がやりとりする緊迫感など、物語としては面白いです。

私は共感できない火の鳥による「罰」ですが、逆になぜそのような納得のできない罰を受けることになっているのか…そこを考えてみるのも面白いのかもしれません。

角川文庫版は「宇宙編」は10巻目にあたる「生命編」といっしょに収録されています。

「火の鳥」を巻数順に読みたい方は、宇宙編4巻目ですが、3巻目のヤマト編と一緒に収録されているタイプの方がおすすめです。

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