手塚治虫「人間昆虫記」感想!主人公の名前に隠された裏設定が恐すぎる…

蝶 手塚治虫作品
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手塚治虫の漫画を収納しているクローゼットを、うっかり開けてしまった私。

ぽこ
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手塚作品を次々に再読している日々です。

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「人間昆虫記」を、久しぶりに読みました。

「人間昆虫記」のザックリとしたあらすじは?

「人間昆虫記」は一言で言うと、エグイ漫画、ですね。

虫の中には、「擬態」…他の生き物の外見をソックリに真似て、弱肉強食の世界を生き抜こうとするものがいます。

「人間昆虫記」の主人公女性は、まさにそんなタイプ。

人から盗んだ技術や作品で、世界から高い評価を得て、のし上がっていきます。

盗む相手を次々に変えるため、何も知らない人から見ると、彼女は次から次へと古い皮を脱ぎ捨てて新しい自分となり、まるで虫が脱皮しているかのように見えます。

「人間昆虫記」とは、この主人公女性が作中で書いた(もちろん盗作)小説のタイトルですが、主人公の虫のような性質も表しているタイトルになっています。

「人間昆虫記」の主人公女性の名前に隠されたカラクリが恐い

ここからは作品のネタバレが入りますので、未読の方はご注意ください!

主人公女性は「十村十枝子(とむらとしこ)」という名前で通っていますが、本名は「臼場かげり(うすばかげり)」。

おそらく「ウスバカゲロウ」をベースにした名前です。

「ウスバカゲロウ」は結構地味な虫なので、人のものを盗むだけで、自分自身は何ももたない平凡で空虚な主人公を表しているんだろうな…と昔は思っていました。

しかし、調べてみると「ウスバカゲロウ」の幼虫は「アリジゴク」!!!

これを知った瞬間に、背筋がゾッとしましたよ…。

アリジゴクといえば、自分の巣に獲物を落とし、捕食する虫。一度巣に落ちた獲物は、自力で這い上がれないことで知られてますね…。

十村十枝子…もとい臼場かげりは、自分が模倣すると決めた相手に食いつき、相手から技や作品、生き方等を盗んだ後は、ほとんどの場合、相手を死に至らしめます。

被害者の中には「アリ」が名前に入っている人物もいる…十村十枝子は大人になることを極端に拒否する(成虫すると「アリジゴク」でなくなる)…「人間昆虫記」は、結構恐い作品だということに気づきましたよ…。

そう考えると、子どもを産ませることで十村十枝子に勝とうとした釜石桐郎の作戦自体は正しかったんですね…。ていうか、釜石桐郎…カマキリか!!!ダメだ、何か恐い…。

十村の生き方は現代社会への警鐘かも?

さて、十村十枝子の生き方ですが、これは現代社会の鋭い描写だと感じます。

ぽこ
ぽこ

1970~1971年に描かれた40年以上前の作品ですが、手塚治虫が現代を予見している感じがありますね。

十村十枝子は、実際には何の能力もない、つまらない平凡な女性です(見た目はカワイイけど)。

ですが、相手の能力を真似て、それを自分のものに見せかけることが、人並み外れて上手なのです。

ターゲットにした相手を、性的魅力も武器にして自分のトリコにしてしまい、油断させたところで盗みます。

盗むものは作品そのものだったり、作品の原案だったり、テクニックだったり、生き方だったり…。

彼女本人にには、何も中身はありません。表面をとりつくろい、自分に能力があるかのように見せて、世界をだましていきます。

ですがこれって、十村が犯罪者であることを抜きにすると、現代社会を上手に生き抜くノウハウ…って感じがしませんか…?

忙しい現代社会では、人はじっくりと相手を観察する時間もなく、パッとわかりやすいものが評価される傾向があります。

真の実力がある人よりも、「実力があるように見える」人の方が生きやすい世の中…。作品のひとつのメッセージなのかもしれません。

十村は「女性に特別嫌われるキャラ」ではなさそう…

十村十枝子には、人のものを模倣したり盗んだりすることの罪悪感はありません。「嘘つきは泥棒のはじまり」と言いますが、彼女の嘘、泥棒は、殺人へとエスカレートしていきます。

そんな悪人キャラで、顔はカワイイ十村ですから、「男性読者はともかく、女性読者からは総スカンを食らうだろう」と思われるかもしれませんが、実は…そんなことはないと思います。

もちろん十村を擁護する読者は男女問わず少ないでしょうが、十村は「特に女性に嫌われるキャラ」ではないでしょう。

なぜかと言うと…十村によって身を滅ぼしていく男性たちは、女性から見て魅力的なキャラが少ないんですよね。同情するのは演出家の蜂須賀くらいで、他の男性は、十村も十村なら、男性も男性という感じ…。

そして作中で一番のイケメンで正義、水野には、十村は最後まで愛情があったのですが、きっぱりと振られてしまいます。

ぽこ
ぽこ

アリジゴク(=十村)は砂地に巣を作るので、「水」とは相性が悪いんでしょうね。

これが、女性読者は、やっぱりスッとしちゃうんですよね(苦笑)。

十村は、やや倫理観の薄い男たちを利用して生きていきますが、本当は水野のような「まともな人間」に愛されたかった…んでしょうね。

水野が十村の愛に応えていれば、十村は救われたのか…こればっかりは、わかりません。

ただし、十村のような生き方をしている女性は、物語の最後まで救われない(ラストの十村は本当に不幸そう)。

ムナクソ悪い物語である「人間昆虫記」で、あのラストが読者にとって、ちょっとしたカタルシスになっている感じもします。

まとめ

十村の名前に隠された裏設定、20年くらい前に読んだときには全然気づきませんでした…。

読者をゾッとさせる裏設定といい、現代でも色あせないテーマといい、本当に手塚治虫はスゴイ…。

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