ウィーンでは世紀末芸術の巨匠クリムトの絵画をたくさん観賞できます。
その中で私が一番感動したのは、「ベートヴェンフリーズ」という作品です。
たっぷりと時間をかけて観賞してきましたので、作品の解説や、観賞に関する実用情報などたっぷりとガイドします!
ベートーヴェンフリーズがある場所
ベートーヴェンフリーズはセセッシオン(分離派会館)と呼ばれる建物の地下にあります。
セセッシオン(分離派会館)は「金色のキャベツ」との異名を持つ、非常にユニークな建物です。
セセッシオンで入場券を購入し、矢印に従って地下に降り、展示されている部屋へ向かいます。
ベートーヴェンフリーズってどんな作品?
「ベートーヴェンフリーズ」はキャンバスに描かれた絵ではなく、部屋をぐるっと囲む形で描かれた壁画です。
ですが、もともとはセセッシオンの地下に描かれたものではありません。
ウィーン分離派の第十四会展という展覧会のために制作されたもので、その展示場の壁に直接描かれていました。
もともとの展示場の様子を表したミニチュア模型が置いてあって、当時の様子がわかりやすいです。
「ベートーヴェンフリーズ」は、展覧会が終わったら壁から剥がされる1回きりの作品として制作されたのですが、この作品を美術コレクターが購入して壁から丁寧にはがして保管したのだそうです。
その後持ち主が変わり、ナチスに接収された時期もありましたが、現在ではオーストリア国有となるという紆余曲折した運命をたどっています。
そしてセセッシオンの地下に「ベートーヴェンフリーズ」を展示するためのスペースが作られ、展示されて現在に至る…ということです。
ベートーヴェンフリーズは「第九」を表現している!
「ベートーヴェンフリーズ」は、なぜ「ベートーヴェン」かというと、あの有名な第九をクリムトが絵画として表現した作品だからです。
要するにクリムト×ベートーヴェンってことですね!すごい豪華な組み合わせ!
クリムトは第九を「人類の幸福への憧れ」の曲と解釈し、絵画化しています。
かなり面白いので、一枚ずつ見ていきますね!
浮遊する精霊
一枚目と二枚目のパネルは、羽のように軽そうな精霊が、天井すれすれのところを浮かんでいる姿が描かれています。
どこか単調なのは、第九の始まりのメロディコードが、あまり複雑な動きをしないことにマッチしているように感じました。
黄金の騎士
3枚目のパネルに現れる黄金の鎧に身をつつんだ騎士。
この騎士に祈りをささげている二人の男女が描かれていますが、全裸なのは飾りのない本心からの祈りというのを表しているのかな?と思ったり。
騎士の後ろにいる二人の美女は、「同情」と「功名心」だそうです。月桂冠を持っている方が「功名心」かな?
英雄のハートを支えるのは、「他者へのやさしさ」と「ヒーローになるという気概」ということなのかもしれません。
4枚目のパネルには、またふわふわした精霊さんたちが描かれます。
敵対する力
入口から向かって正面部分には「敵対する力」…悪役たちがどーんと描かれています。
悪の親玉。ギリシャ神話に登場する怪物テュホーンだそうです。でもあんまり悪い人に見えないなあ…。何も考えていないゴリラって感じ(言いたい放題の私…)。
前の3人はギリシャ神話にも登場するテュホーンの娘、ギリシャ神話の悪役・恐ろしい怪物のゴルゴン三姉妹。
ゴルゴンは髪の毛が蛇なんですが、クリムトが描くとあまり怖くなく、むしろチャーミングですね。真ん中の女性なんかむしろカワイイ。
この三姉妹の後ろにいるいかにも悪そうな女性は「死」の寓意像。その後ろに描かれている変な顔の数々は、病気や狂気を表しているそうです。
「怖い絵」で中野京子さんが「人間の恐怖はすべて『死』と『狂気』に収斂される」と書いていたのを思い出します。
後ろの悪そうな美女二人は淫欲と不貞。お腹が出た女性は不節制。後ろの二人が魅惑的なのが「やっぱりそうなるよね…」という感じですね。
この女性は「悲しみ」を表しているそうです。
他の悪役たちがどこか攻撃的な雰囲気なのに対し、こちらの女性は内にこもっている感じしかしないですね。
人間の敵は外側にだけではなく、自分の内側にもいる…まさしく「絶望は死に至る病」ということなのでしょう。
見逃してしまいそうなのですが、この「敵対する力」の一番右端上の方から、またふわふわした精霊が飛び出しています。
この精霊は「人間の希望に対するあこがれは敵対するこれらの力を越えていくのよ~」という、希望にあふれたメッセージとして描かれているのだそうです。
第九のメロディに本当によくマッチした作品ですよね。
詩
悪者の右上から飛び出した精霊は、そのまま右の壁へと続いていきます。
この金色の女性は「詩」の擬人像。「くちびるに歌を持て。 心に太陽を持て」のメッセージでしょうかね。
空白
詩人の次のパネルは空白になっています。
非常に意味深な空白に見えますが、これはもともと「ベートーヴェンフリーズ」が描かれた展示場で、この方角にベートーヴェンの像があったため、視界を邪魔しないように空白のままにされていたのだとか。
大団円となる接吻
最後のパネルは曲のクライマックスです。敵対する力に第九の音楽が表す喜びの力が勝利したような雰囲気ですね。
手を取り合って合唱している女性たち。第九のメロディが聞こえてきそう!
ベートーヴェンフリーズ観賞に必要な所要時間は?
ベートーヴェンフリーズはそれほど広い部屋に描かれているわけではありません。
パネルは全部で(空白も含めて)7枚。
私はかなりゆっくり見て30分観賞しましたが、他の観光客の方たちは10~20分くらいの滞在という感じでした。
私のようなゆっくり派で30分なので、最大で30分見積もっておけば、余裕をもって観賞できるという感じです。